はじめてのソロキャンプで見つけた静けさ
初めてソロキャンプに出かけた日の朝、部屋の床には道具があちこちに散らばっていた。 ザックを用意していなかった私は、キャンプ道具をひとつずつ手に取りながら、「これも必要だろうか」と自問し続けていた。 窓から差し込む光が、床に置いた金属のカップを鈍く照らし、部屋の静けさだけがやけに大きく感じられた。
荷物をまとめるのに時間がかかり、出発が遅れた。 それでも車を走らせて山道に入ると、空気が少しずつ変わっていくのが分かった。 街の匂いが薄れ、代わりに湿った土と草の香りが鼻をくすぐる。 木漏れ日がフロントガラスに揺れ、風に揺れる枝葉の影が車内に踊るように映り込んだ。
キャンプ場に着くと、周囲は深い緑に包まれていた。 テントを張る場所を決め、地面に手をつくと、ひんやりとした土の感触が指先に伝わる。 遠くで鳥が短く鳴き、風が木々の葉をざわめかせる。 その音が、準備のときに胸の奥にあったざわつきを、少しずつ溶かしていった。
テントを立て終え、椅子に腰を下ろすと、視界いっぱいに広がる緑が静かに迎えてくれた。 焚き火を起こすと、乾いた枝がパチッと弾け、細い煙が空へとまっすぐ伸びていく。 火の赤い揺らぎが、夕暮れの薄い青と混ざり合い、時間がゆっくりと流れ始めた。
風が頬をなでるたび、その温度が心地よく感じられた。 自然の中で静かに過ごすということが、こんなにも深く心を落ち着かせるのかと驚いた。 誰とも話さず、ただ風の音に耳を澄ませ、焚き火の光を眺めているだけで、胸の奥がすうっと軽くなる。
今振り返れば、あの準備のバタバタも、荷物の整理がうまくいかなかったことも、全部ひっくるめて良い思い出だ。 むしろ、あの不器用さがあったからこそ、自然の中で感じた静けさがより深く染みたのだと思う。
これからも私は、あの日のように、自然の中で静かに過ごす時間を大切にしていきたい。 焚き火の揺らぎと風の音に包まれながら、心がゆっくりと整っていくのを感じていたい。